外科的矯正治療の発達にともない、骨格性の咬合異常や顎顔面の非対称を伴う顎顔面変形症において、その診断、治療法、予後に対する関心は高く、特に下顎前突症患者での診断、治療法はほぼ確立しつつある。しかし、側方への偏位、変形を伴う顎顔面非対称患者へのアプローチはいまだ確立されたものはなく、またその成因についても明確な報告はない。そこで今回、咬合や咀嚼筋の機能的、組織学的異常と顎顔面の変形との関係を明確にするため、成長期ラットを用いて検討した。 【試料、及び方法】 実験動物としては、生後3週(雄、体重45g前後)のWistar系ラットを用いた。咬合異常を想定し片側臼歯の咬合面にレジンを積層し、片側咀嚼のみの咬合に設定。実験後、2、4、12週にエチルエーテル麻酔下で屠殺し、左右咬筋を採取し急速凍結した。凍結切片は薄切後、筋線維分化の指標としてATP ase染色を行った。また、下顎骨の形態計測は正中矢状面で分割後、乾燥頭蓋を作製し、花田、関本らの計測点を参考にして、直接、計測を行った。 【結果、及び考察】 ATP ase染色では、実験後、2週、4週目まではタイプ2Aとタイプ2Bが約1:2の割合で存在しており、実験後12週目では、ほぼ同様な割合を示していた。しかし左右咬筋には有意な差は見られなかった。下顎骨の形態計測では、正常咬合ラットと比較し全体的に各計測項目で小さい傾向を示した。しかし左右顎骨の比較においては、有意な差は見られなかった。今回の実験においては、臼歯咬合面に積層したレジンが経時的に咬耗した事により、咬合異常が持続できなかった事によるものが大きいと考えられるため、今後、実験系を再確認した上で、試料数を増やして検討したい。
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