小児期は口腔の運動、機能を獲得する上で重要な発育段階にあり、この時期に何らかの障害を受けると後々の運動、機能障害を引き起こす危険性を有する。外傷や齲蝕によりはの喪失を余儀なくされた小児においては歯牙欠損により構音障害、咀嚼障害などの口腔機能障害がしばしば認められる。そこで本研究では歯牙欠損を有する小児を対象に、医用動画像解析システムおよび電気的パラトグラフィー(EPG)を用いて構音、咀嚼運動時の舌、下顎、口輪筋運動を検討することとした。 動画像解析システムはビデオカメラ(正面、側面)で撮影した対象患児の顔面皮膚上の標点を自動追尾し、3次元解析を行うことのできるもので、患児の苦痛は殆ど無く、きわめて簡便かつ短時間に資料採得が可能である。また独自の補正システムにより頭部動揺の補正が自動的に可能であるため、低年齢の患児についても検査を行ない得るという利点を有する。このようなシステムを用いて構音運動、咀嚼運動を検討したところ次のような結果が得られた。 構音運動においてはEPG所見では症例数が少なかったため舌、口蓋接触様式は個人差、年齢差に大きく左右された。 音声分析においては母音産生時の影響は少ないものの、子音とくに歯音/s/は構音能力の完成時期が遅い子音のためか影響を受けやすかった。発語明瞭度は全般的に3、4歳で著しい上昇を示した。 下顎運動についてはガム咀嚼時の解析を行ったところ歯牙欠損の無い対象群では比較的低年齢の頃より咀嚼パターンが安定していた。歯牙欠損群の欠損側では非定型的パターンが多くみられるものの、保隙装置装着とその後の学習により個人差があるがパターンの定型化がみられた。非欠損側では定型的パターンが多かった。 今後はこれらを更に詳しく解析した後、舌運動と顎運動の同期解析を試みる所存である。
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