研究概要 |
含窒素多環芳香族炭化水素のニトロ体は新規環境汚染物質として注目されている。環境中での存在が明らかとなっているフェナンスレンの含窒素体(1-,4-及び9-アザフェナンスレン)及びこれらのN-オキシド体が、大気中NOxによって生成することが予測されるニトロ体の合成を検討した。その結果、アザフェナンスレンは、濃硫酸中、濃硝酸によってニトロ化が進行し、1-アザ体からはモノニトロ体2種(5-及び8-ニトロ体)とジニトロ体4種、4-アザ体からはモノニトロ体4種(5-,6-,8-,及び10-ニトロ体)、とジニトロ体2種、9-アザ体からは、モノニトロ体5種(4-,5-,6-,7-,及び8-ニトロ体)と、ジニトロ体1種が得られた。一方、アザフェナンスレンのN-オキシド体は、発煙硝酸により0℃でニトロ化が進行し、モノ及びジニトロ体を得た。合成したニトロ体の還元電位をサイクリックボルタンメトリーにより測定し、ニトロアレーンの毒性発現機構の1つと考えられるニトロ基の還元代謝反応の化学的解析を行なった。測定はジメチルホルムアミド中、過塩素酸テトラエチルアンモニウムを支持電解質として行なった。その結果、これらの化合物は、一電子及び二電子還元性がフェナンンスレンのモノニトロ体と比べて増加していることが明らかとなった。特に、一電子目の還元性はモノニトロフェナンスレンと比べて、アザ体は約100mV、N-オキシド体は約200mV還元され易くなっていることが示された。変異原性試験の結果、これらの化合物は、S9非存在下、TA98及びTA100で直接変異原性を示したことから、ニトロ基が還元代謝活性化されて毒性を発現することが明らかとなった。特に6-ニトロー4-アザフェナンスレンN-オキシド、1,8-ジニトロー4-アザフェナンスレンN-オキシドは強力な変異原物質であることが明らかとなった。
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