本研究では胎児性胆汁酸の生成機構を解明する目的で、カニクイザルの胆汁酸代謝機構を精査し、ヒトのモデル動物として有用性に関する基礎的検討を行い、下記の結果を得た。 1.カニクイザル肝組織及び血液中の胆汁酸組成をGC-MSにより分析した結果、ヒト以外の哺乳動物では初めて1beta-、2beta-、4beta-及び6alpha-位に水酸基を有する胆汁酸の存在が明らかとなった。 2.胆汁酸常成分を基質として肝ミクロソームとインキュベートしたところ、いずれの基質においても1beta-、2beta-、4beta-及び6alpha-水酸化体の生成が認められた。基質構造の差違により主要水酸化部位は異なっており、デオキシコール酸では1beta-位へ、ケノデオキシコール酸及びリトコール酸では6alpha-位への水酸化が最も進行した。コール酸についてはほとんど水酸化成績体の生成は認められなかった。 3.1.及び2.で見い出された新規成分については、その量論的研究を進めるため、標品合成を行った。 4.肝ミクロソームの1beta-水酸化酵素の基質特異性を各種胆汁酸アナログを用いて検討した結果、3位及び12alpha位に遊離の水酸基を有するジヒドロキシ胆汁酸で最も1beta-水酸化が進行し、トリヒドロキシ胆汁酸ではほとんど進行しないことが明らかとなった。 5.胆汁酸の1beta-水酸化及び6alpha-水酸化には、複数のP-450分子種が関与していることが示唆された。 以上、カニクイザルにおける胆汁酸代謝について検討を行った結果、テトラヒドロキシ胆汁酸の生成に関しては不明な点が残されているものの、ヒト類似の胆汁酸代謝機構の存在が認められ、ヒトのモデル動物としての有用性が示唆された。
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