研究概要 |
本研究では、低い腸管膜透過性を改善するための手段として安全かつ有効な促進剤の開発を目的とし、促進剤の細胞間隙拡大の作用機構を検討した。従来の実験動物の結果が必ずしもヒトにおける結果を反映しているとは言い切れず、また医薬品の対象の多くがヒトであることを考慮し、ヒト結腸癌由来のCaco-2細胞を用いた。モデル薬物には分子量4000のFITC-Dextran(FD-4K)を、吸収促進剤にはこれまでの研究背景から効果的と考察しているsodium caprate(C10)を用いた。また、C10にcarnitineの結合したdecanoy1-carnitine(DC)との比較を行い、促進機構の一般性を考察した。従来より吸収促進時には細胞間隙の拡大があると考えられており、その拡大機構としてEDTAで代表されるキレート説がある。一方、今回用いた促進剤はキレート能が弱く、この説では説明出来ない。そこで細胞間隙の構造変化が膜裏打ちタンパクをリン酸化するProtein kinase Cや,細胞骨格を形作るマイクロフィラメントの収縮活性化能(Myosin light chain kinase)に依存するという考えから、 1.促進剤の生理学的作用点を解明する目的で上記kinaseの阻害剤H7、W7を共存させ、FD-4Kの膜透過性改善作用が低下するか否かを検討した。C10の膜透過改善効果はW7の共存によってのみ有意に低下し、収縮性タンパクの活性化が示された。DCの促進効果はH7、W7いずれにおいても抑制されなかった。 2.細胞間隙拡大の実証に用いた膜抵抗値はC10により経時的に減少し、W7との共存でその低下は抑制され、FD-4Kの透過性との対応がみられた。 3.C10は粘膜側、奨膜側の添加に関わらず同程度の促進効果を示したが、DCは粘膜側の添加でより大きな促進効果を示した。 4.Glucoseとの共存でC10効果は減弱したがDC効果は逆に増大した。以上の結果よりC10、DCはCaco-2細胞においてFD-4Kの細胞間隙経路の膜透過改善を示したが、両者の機構は全く異なり、細胞間隙拡大機構には、キレート機構以外にも複数の機構があると考察した。
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