1.エンケファリン誘導体の鼻腔から脳脊髄液への移行性 モデル薬物として、[D-Ala^2]メチオニンエンケファリナミド(ENK)を用いた。まず、ENKを静脈内投与し、投与15分後における脳脊髄液中濃度を測定したところ、定量限界以下であることが明らかとなった。次に、ENKを点鼻投与したところ、血液中濃度は静脈内投与時と同程度であったにもかかわらず、脳脊髄液中への出現が認められ、ENKのようなペプチドでも鼻腔から直接脳脊髄液に移行することが明らかとなった。さらに膜透過促進剤あるいは蛋白分解酵素阻害剤を併用したところ、蛋白分解酵素阻害剤併用時には血液中濃度、脳脊髄液中濃度ともに単独投与の場合と比較して増大したが、膜透過促進剤併用時には脳脊髄液中濃度が予想に反して減少した。これは、膜透過促進剤併用時においては、血液中への吸収が顕著なために、鼻腔内ENK濃度が非併用時に比べて急速に減少したためと考えられた。 2.経鼻投与された薬物の脳組織への移行性 モデル薬物として、血液脳関門の透過性が乏しい5-fluorouracil(5FU)を用いた。5FUを点鼻投与、点滴静注し、血液中薬物濃度および脳組織内濃度を測定して血液からの移行クリアランスを求め、比較検討した。鼻腔から直接移行した薬物が周囲のCSFに高濃度で分布すると考えられる嗅球および大脳皮質前頭葉の濃度は点滴静注時と比較して大きく、薬物を経鼻投与することにより、脳へ薬物を送達しうることが示唆された。しかし移行、クリアランスの差は投与後10分で最も顕著であり、その後は縮小する傾向にあった。これは、薬物の血液中への吸収に基づく鼻腔内薬物濃度の減少が主要因と考えられた。
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