本研究では、DNAの塩基配列認識能を有するプローブDNAをキャピラリーのゲル中に共存させた、新規キャピラリーカラムを作製し、DNAプローブキャピラリー電気泳動によるがん遺伝子およびがん抑制遺伝子の変異点部分の塩基配列を選択的に認識することに成功した。 1.がん遺伝子としてN-ras遺伝子、がん抑制遺伝子としてp53遺伝子をターゲットとして選択し、これらの遺伝子に存在する変異点近傍の塩基配列に対応する種々のプローブDNAを合成し、そのプローブDNAをキャピラリーのゲル中に共存させた、DNAの塩基配列認識能を持つ新規キャピラリーカラムを作製した。 2.これらのDNAプローブキャピラリーを用い、種々の条件下、N-rasおよびp53遺伝子のオリゴDNAの電気泳動を行ない、DNAプローブ濃度、キャピラリー温度がその泳動挙動に大きな影響を及ぼすことを明かにした。 3.泳動条件と泳動挙動の関係を解析し、がん遺伝子あるいはがん抑制遺伝子の泳動時間(t)とこれらの遺伝子とDNAプローブとの会合定数(Ka)との間に、定量的な関係{t=t_0(1+Ka〔L〕_T)}が成立することを実証した。ここでt_0はプローブDNAが存在しない場合の遺伝子の泳動時間、〔L〕_TはプローブDNAの総濃度である。 4.この関係式を基に、がん遺伝子およびがん抑制遺伝子の変異点部分の塩基配列を識別する際の最適条件を決定した。さらに、この最適条件下において、がん遺伝子N-rasおよびがん抑制遺伝子p53の変異型と正常型を25分以内に識別できることを明かにした。 これらの成果は、ここで開発した新しい方法が、がんの遺伝子診断へ応用可能であることを示している。今後は、今回検討したもの以外のがん遺伝子およびがん抑制遺伝子の塩基配列を識別し、より一般的ながんの遺伝子診断を可能にするシステムの開発を検討中である。
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