ラット脳の一酸化窒素合成酵素(NOS)をNADPHジアホラーゼ染色すると小脳が強く染色され、海馬も染色された。ラット小脳から精製した分子量16万の一酸化窒素合成酵素(n-NOS)は、Ca^<2+>存在下カルモジュリン(CaM)によってL-アルギニンを基質としてNOを産生した。ウエスタンブロット解析から、小脳および海馬にはCaMが豊富に存在することが示唆された。小脳および海馬はシナプス可塑性モデルであるLTDおよびLTPが発現することが知られている。このことから、神経細胞にCa^<2+>が流入した時のみ、NOSは活性化されNOを産生すること、さらにシナプス可塑性に関与することが推定された。 初代培養グリア細胞にはn-NOSは存在しないが、エンドトキシン(LPS)刺激によって分子量13万のNOS(i-NOS)が誘導され、大量のNOが産生されることを見い出した。i-NOSは、n-NOSと異なり、Ca^<2+>非依存的にCaMと結合し活性されることが示唆された。また、LPSによるi-NOS誘導はアクチノマイシンD(mRNA合成阻害薬)およびシクロヘキシミド(蛋白質合成阻害薬)処置によって完全に抑制された。グリア細胞のLPS刺激によって分子量12万の蛋白質がチロシンリン酸化され、i-NOS誘導がハービマイシンA(チロシンキナーゼ抑制薬)およびホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼCによって抑制された。このことからLPSはCD14様蛋白質を介してチロシンキナーゼを活性化させ、i-NOS蛋白質を転写誘導することが推定された。さらに、誘導されたNOSを染色するとミクログリア細胞が強く染色され、アストログリア細胞も弱いながら染色された。また、NO産生するニトロプルシッド(SNP)によって神経細胞死が引き起こされたが、DBu-cGMP(Gキナーゼ活性化薬)では細胞死は起きないことを見い出した。さらに、SNPによってグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)がADPリボシル化が増強された。以上の結果から、NOによる神経細胞死には、Gキナーゼの活性化は関与せず、GAPDHなどのADPリボシル化が関与することが推定された。
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