研究概要 |
ゲンタマイシン(GM)等のアミノグリコシド系抗生物質(AG)は感染症治療に繁用されているが、副作用として腎毒性を引き起こす。AGによる腎毒性発現機構は現在のところ不明である。本研究では、これまでにないアプローチとして分子生物学的手法を用い,AGによる腎毒性発現の生化学的機構について解析を試みた。すなわち、AGの一種であり毒性の強いG418(ゲネチシン)の構造がGMと極めてよく似ていることに着目し、培養腎上皮細胞LLC-PK1に及ぼす両AGの影響について解析するとともに、LLC-PK1細胞にG418不活化酵素をコードする遺伝子pSV2-neoを導入し、これら薬物に対する感受性をコントロール細胞と比較検討した。 1.LLC-PK1細胞におよぼすAGの影響 GMおよびG418はLLC-PK1細胞に対して、浮遊死細胞の増加、コロニー形成能・頂側膜酵素活性の低下をひき起こした。また両薬物は、細胞およびミクロソーム系において蛋白合成を阻害した。両薬物によるこれらの影響は質的に同一と考えられた。 2.pSV2-neo導入LLC-PK1細胞におよぼすAGの影響 LLC-PK1細胞にpSV2-neoをリン酸カルシウム沈澱法により導入した。遺伝子導入細胞とコントロール細胞に対するGMおよびG418の影響を比較検討したところ、遺伝子導入細胞ではG418による蛋白合成阻害効果をはじめ上述の影響が消失または軽減していた。一方、G418不活性酵素の基質とならないGMではコントロール細胞と同様の影響が見られた。蛋白合成阻害効果は、頂側膜酵素活性の低下や細胞のviability低下に先行して起こることから、これらの結果はAGによる細胞毒性ひいては腎毒性発現に蛋白合成の阻害が関与することを強く示唆しているものと考える。
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