本研究課題は、腎尿細管上皮細胞株LLC-PK_1におけるATP処置によるc-fosおよびc-mycmRNAの発現とその調節機構の検討を目的として行った。まず、c-fosおよびc-mycmRNAの発現を調べる方法として、抽出したmRNAを逆転写した後PCRによりcDNAを増幅するRT-PCR法と通常の特異的プローブを用いたノーザンブロット法とを比較した。その結果、c-fosmRNAの発現は通常のノーザンブロット法で感度、再現性ともよい結果が得られることが判明したが、c-mycmRNAに関しては強いシグナルを得られず、RT-PCR法を採用した。ATP(100muM)処置による各mRNAの発現を調べたところ、c-fosmRNAは処置後15-30分にかけて一過性の強い発現が認められた。一方、c-mycmRNAの発現は処置後1-2時間で若干認められたが、c-fosmRNAに比べると明らかに弱かった。次いで、ATP処置によるc-fosmRNAの発現誘導機構について検討を行った。各種プリン受容体アゴニストによる発現誘導を比較したところ、P_<2Z>受容体アゴニストである3′-O-(benzoyl)-benzoyl-ATPに最も強い発現誘導能を認めた。各種蛋白リン酸化酸素阻害薬の影響を調べたところ、Ca^<2+>/カルモデュリン依存性キナーゼII阻害薬KN-62に強い発現誘導阻害作用を認めた。以上の結果から、腎尿細管上皮細胞株LLC-PK_1において細胞外のATPはP_<2Z>受容体活性化-Ca^<2+>/カルモデュリン依存性キナーゼII活性化という系を介して最初期応答遺伝子c-fosmRNAの発現を誘導するものと考えられる。 本研究計画により得られた成績は、腎尿細管において細胞外のATPが増殖制御因子として機能していることを示しており、細胞間情報伝達に関与する細胞外ATPの作用機序および生理的役割の一端が明らかになった。
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