新規抗エストロゲン剤であるエストラジオール-クロラムジシル複合体(KM2210)とアルキルリゾリン脂質(ET-18-OCH_3)の熱ショックタンパク質(HSP)に対する影響をホルモン依存性乳癌細胞MCF-7を用いて検討した。 KM2210(10^<-6>M)をMCF-7に37°Cで4日間作用させると、HSP70の誘導が認められた。HSP70はMCF-7に42°C、30分間の熱ショックを与えることにより出現したが、ET-18-OCH_3(10mug/ml)を37°Cで4日間作用させても発現せず、さらに、ET-18-OCH_3存在下で熱ショックを与えてもHSP70の発現には影響を与えなかった。また、これらの薬物は共にHSP90に対してはほとんど影響を与えなかった。HSP以外のタンパクに対する影響を検討したところ、KM2210は34kDaの可溶性タンパクの発現を抑制し、54kDaの可溶性タンパクと60kDaの不溶性タンパクの発現を促進した。KM2210はエストロゲン受容体の合成をmRNAレベルで抑制することから、これらのタンパクがエストロゲン依存性に機能しているものか興味深い。一方、ET-18-OCH_3は60kDaと43kDaの不溶性タンパクの発現を抑制したが、 可溶性タンパクに対してほとんど影響を与えなかった。ET-18-OCH_3は細胞膜上の上皮成長因子(EGF)受容体の細胞内移送を抑制することが知られており、ET-18-OCH_3により発現が抑制された不溶性タンパクの機能とET-18-OCH_3の作用との関連は今後の研究課題である。当該年度ではKM2210やET-18-OCH_3のタンバク発現に対する影響と抗エストロゲン作用との関連を明らかにすることはできなかったが、HSPやそれ以外のタンパクの発現に対して両薬物が異なった作用を示すという結果は両薬物の作用機序が異なることを示すものであり、これらのタンパクの生理的役割を明らかにし、抗エストロゲン作用との関連を今後明らかにして行きたい。現在、エストロゲンにより誘導されるHSP27に対する両薬物の影響と、KM2210によるHSP70誘導における転写レベルでの作用を検討している。
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