研究概要 |
幼若期のブタ精巣中に局在する3alpha/beta,20beta-ヒドロキシステロイド脱水素酵素(3alpha/beta,20beta-HSD)は、薬物代謝酵素として知られるヒトのカルボニル還元酵素ときわめて類似した構造と活性を持ち,ブタ体内では出生直後にmRNAレベルでの発現調節を受けている酵素である.今回,生理学的存在意義の考察を目的として生後10日の幼若ブタより各種内分泌関連臓器を摘出し,本酵素の臓器中分布について検討した.まず,各臓器より調製した可溶性画分中の各酵素活性値を測定した.20beta-HSDの比活性は,精巣:87.0,脳:3.5,肺:2.5,副腎:2.6,腎:3.1(いずれもpmol/min/mg protein)で精巣にきわめて特異的な結果であり臓器一個当りの総活性値では肺,腎,精巣に同程度(3.2-3.9nmol/min)存在した.また3alpha/beta-HSD活性については,比活性値は精巣,副腎,肝,脳に比較的高く(1.6-3.8nmol/min/mg),総活性値は臓器重量の値を反映して肝臓に特異的な結果が得られた.カルボニル還元酵素活性は,用いた両基質間で際だった差は見られず,比活性,総活性の何れも脳や肝臓などに高い結果が得られた.一方,精製酵素に対するIgGを作成し,ウエスタン-酵素抗体法により本酵素分子を検出した結果,精巣に最も多く,次いで肝臓,腎臓にもわずかに存在することを確認した.さらに,cDNAをプローブとして,各臓器より抽出したmRNA存在量をノーザンブロットハイブリダイゼーション法により検出したところ,実験に用いた肺,脳,肝,膵臓,精巣,心臓,卵巣,以上7種の臓器中では精巣に特異的に存在した.各酵素活性値の体内分布とウエスタンおよびノーザンブロットとの結果の差から,幼若ブタ体内に同様な活性を示す別種の分子が存在する可能性も示唆されたが,結論として本酵素分子は精巣中に特異的といえる分布を示し,かつmRNAレベルでの発現調節を受けていることからも,ある種の幼若期独特のアンドロゲン代謝に関与していると考えられる.なお生理的意義の詳細についてはさらなる検討が必要であると思われる.
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