強力な肝再生因子として、近年発見された肝細胞増殖因子(HGF)は、その後scatter factorと同一であることが報告され、クローニングされて、その蛋白化学的解析も進んでいる。最近、我々は、HGFがアラキドン酸代謝を亢進しプロスタグランジン産生を誘導することを見い出した。プロスタグランは種々の生理作用のメディエーターであることが報告されており、例えば、細胞増殖に対しては促進・抑制の両方向の効果を発現しうるし、また、アラキドン酸代謝物のいくつかは、走化作用を有することも報告されている。本研究では、HGFによって産生誘導されたプロスタグランジンなどのアラキドン酸代謝物が、細胞の増殖や運動性の変化に対して如何なる役割を果たしているかを生化学的に解明することを目的とした。本研究では、ヒト胃ガン細胞TMK-1を用いた。まず、HGFが誘導するプロスタグランジンを同定するため、[^<14>C]-アラキドン酸で細胞脂質を標識し、HPLCを用いて分析を行った。その結果、TMK-1細胞で産生されている主なプロスタグランジンはPGE_2であり、HGF刺激によって、このPGE_2産生が4〜5倍に上昇していることが確認された。続いて、HGF刺激により産生されたPGE_2が、どの様な生理作用に関与しているかについて検討した。HGF刺激を行う前にプロスタグランジン合成阻害剤であるインドメタシンやフルルビプロフェンで細胞を処理することによりプロスタグランジン産生を抑制し、細胞の運動性や形態変化に、どの様な影響を及ぼすかを調べた。ケモタキシスチャンバーや[^3H]チミジンなどを用いた実験を行った結果、TMK-1細胞では、プロスタグランジン合成を抑制しても、HGF刺激で促進された細胞の運動性や増殖には影響を与えないことが判明した。以上の結果より、本研究では、HGFにより誘導されたプロスタグランジンはこれらの生理作用の制御には関与していないことが示された。
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