胃ガン細胞株MKN74細胞は、肝細胞増殖因子(HGF)によって、その増殖が強く促進された。この増殖促進効果は、本来は、上皮細胞の増殖を抑制する因子であるtransforming growth factor-beta(TGF-beta)によって、さらに増強された。また、HGFはMKN74細胞に対してscattering活性を示し、その作用もTGF-betaによって増強された。そこで、TGF-betaによるHGFの作用増強の機構を分子レベルで明らかにするため、以下の2点について実験を行なった。 (1)HGF受容体のチロシンリン酸化について、受容体を免疫沈降することにより検討した。その結果、HGF刺激5分後に、濃度依存的に、顕著なチロシンリン酸化の亢進が見られた。HGF刺激に伴うチロシンリン酸化がTGF-betaにより変化するか、また、それによってチロシンキナーゼ活性が修飾されているかについて、現在、検討を続けている。 (2)細胞間接着において重要な役割を担っているカドヘリン・カテニン複合体について、それが、HGF刺激によって量的質的に変化していないかを検討した。まず初めに、カドヘリンとカテニンの発現量はHGF刺激によるscatteringの前後で変化がないことを確認した。次に、複合体としての量の変化について検討したところ、複合体の量、ならびに各成分の量比には変化がなかった。それに対して、カテニンのひとつであるbeta-カテニンのチロシンリン酸化レベルがscatteringした細胞では高くなっていた。増殖因子の刺激にともないscatteringが起こる際、beta-カテニンのチロシンのリン酸化レベルが亢進することを初めて示した。この結果は、リン酸化により、細胞間の接着が制御されている可能性を強く示唆するものであると考える。そこで、TGF-betaによってscatteringが促進されるとき、beta-カテニンのチロシンリン酸化レベルがさらに亢進しているのか、あるいは異なる機構による制御であるかについて、現在、検討を進めている。
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