腫瘍壊死因子(TNF)は、腫瘍細胞に対してのみ、傷害性を示すサイトカインの一種である。この腫瘍細胞選択的な細胞傷害作用が、如何なる機構により発現するのかについて検討する目的で、TNFの細胞傷害作用に対して感受性の高いマウス結合組織由来の腫瘍細胞L929より、TNF耐性株を複数単離し、現在、その性状を解析している。本年度は耐性株のうちの一つであるC12細胞を材料にして、TNF抵抗性獲得の機構を解析した。すなわちC12細胞では、興味深いことに細胞質のホスホリパーゼA_2活性が著しく低下していたので、ノーザンブロッテイング分析により、ホスホリパーゼA_2発現量について検討したところ、親株L929に比較してホスホリパーゼA_2のアイソザイムの一つであり、アラキドン酸含有リン脂質に対して高い選択性を有する高分子量型細胞質ホスホリパーゼA_2(cPLA_2)のmRNA発現量が、この耐性株においては明らかに低下していた。そこで次に、PCR法によりマウスcPLA_2遺伝子を調製し、C12細胞に導入したところ、TNFに対する感受性が、遺伝子導入細胞において回復していることを確認できた。この時、TNFに対する感受性と、遺伝子導入により回復した細胞質のホスホリパーゼA_2活性のレベルとの間に、良い相関性が見られた。以上の結果は、TNFの細胞傷害作用発現の上で、cPLA_2を介したアラキドン酸代謝系が重要な役割を果たしていることを示している。今後はC12細胞以外の耐性株における抵抗性獲得機構を解明するとともに、ホスホリパーゼA_2の下流の酵素系の役割についても、さらに検討する予定である。
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