先行研究および諸調査の報告によれば、我が国では自分の死後の臓器提供について、移植医療がより一般的に行われている欧米諸国と比較してほぼ同様に肯定的であるが、実際に提供される臓器の数は遙に少ない。また我が国では、故人の意思が明示されているいないを問わず、遺族の承諾が臓器摘出の要件とされており、故人の代理者として遺族に大きな役割を与えている。 本研究の目的は、1.家族間で死後の臓器提供についての意思疎通がどの程度行われており、2.現行の遺族による故人の代理者としての臓器摘出の同意または拒否が、正当性を持ちうるものか否かを、明らかにすることにある。 茨城県下の高校生460名とその父兄を対象に、1993年8月に調査票調査が行われた。405名(86.2%)の学生、320名(68.1%)の父兄から回答が得られた。自分の死後の臓器提供については、学生の44.8%、父兄の34.3%が賛成すると回答した。学生と父兄の両方から回答の得られた246例をもちいたクロス分析では、死後の臓器提供について自分の意思を賛成・反対の形で表明した168人の学生に対して、その父兄のうち31.0%が学生の意思を正しく推測したに過ぎなかった。本調査により、1.家族が故人の臓器提供の希望について知っている情報は比較的少なく、2.家族が行う故人を代理しての臓器提供するか否かの意思決定は必ずしも故人の意思を反映していないこと、3.臓器提供において故人の任意性を担保するためには、ドナーカードのような故人の意思を直接に表すような意思表示手段の普及が優先されるべきことが示唆された。
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