研究概要 |
今年度は、先天性甲状腺刺激ホルモン(TSH)・成長ホルモン(GH)・プロラクチン(PRL)完全複合欠損症以外の他の疾患でPIT1遺伝子の変異によりTSH,GH,PRLの部分欠損を起こすかを検討した。方法としては、PIT1遺伝子の各エクソンの蛋白コード領域をPCR法により増幅したあと、その産物を蛍光シークエンサーを用いて、クローニングをせずに直接塩基配列を決定して正常の塩基配列と比較した。 まず、家族性の先天性のTSH・GH・PRL複合欠損症の同胞例と、GH欠損症の同胞例とについて検討したところ、どちらにも変異を認めなかった。 つぎに、先天性の下垂体ホルモン欠損症の散発例について調べた。結果としては、TSH不完全、GH・PRL完全複合欠損症では、2例中2例とも変異を認めたが、TSH・GH・PRL不完全複合欠損症の2例、GHと甲状腺ホルモンを共に補充療法している17例、何れもGH・PRL不完全複合欠損症の1例では変異を認めなかった。 このうち、PIT1遺伝子に変異のあった2例では、ともに一対のPIT1遺伝子のうち一本にシトシンがチミンへ一塩基置換を認めたが、他の一本には変異を認めなず、優勢変異を考えられた。この変異により、271番目のアミノ酸であるアルギニンがトリプトファンに置換した。つぎに、この変異が両親から遺伝したかどうかを両親の塩基配列を決定して検討した。すると、一家系では両親のどちらにも変異を認めず、配偶子を形成する段階で新たな変異が起こったことをPIT1遺伝子で初めて明らかにした。それに対し、他の家系では父親にもヘテロに変異を認め、さらに祖母にも変異を認め、この変異があっても発症しない場合があることを初めて明らかにした。
|