外部より投与したノルアドレナリンやアドレナリンは摘出ウシ脳底動脈をbeta_1受容体刺激を介して弛緩するが、経壁電気刺激による神経性弛緩はbeta遮断薬処置では影響されなかったことから、これらのアミンは脳底動脈を神経性ではなく体液性に調節する可能性が示唆される。 一方、阻害薬処置やペプチドによる脱感作および内皮細胞除去による実験によって、ATP、ヒスタミン、血管拡張性プロスタノイド、血管作用性腸管ペプチド(VIP)やカルシトニン遺伝子関連ペプチドならびに内皮細胞の関与する可能性は否定された。しかし、神経性弛緩は一酸化窒素(NO)のスカベンジャー(オキシヘモグロビン)および可溶性グアニレートシクラーゼ阻害薬(メチレンブルー)の処置により著しく抑制された。さらに一酸化窒素合成酵素阻害薬(L-ニトロアルギニン)の処置によっても強く抑制され、この抑制効果はL-アルギニンの添加により消失したが、これらの右旋性の光学異性体は効果を示さなかった。したがって、ウシ脳底動脈の主要な拡張性神経の伝達物質はNOないしその関連物質である可能性が高く、これが平滑筋細胞内のグアニレートシクラーゼを活性化して血管を拡張させるようである。 外部より投与したアセチルコリンは内皮を除去した脳底動脈標本の張力を変化させなかった。一方、神経性弛緩はアセチルコリン、コリンエステラーゼ阻害薬処置により抑制され、逆にアトロピン処置によって増強した。なお、組織化学的研究から同動脈におけるコリン作動性神経の存在が確認されている。 以上の結果より、ウシ脳底動脈の主要な血管拡張神経は一酸化窒素作動性神経であり、コリン作動性神経から遊離されるアセチルコリンは拡張神経終末に存在するムスカリン受容体に結合して拡張神経の機能を抑制すると考えられた。
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