ラットの作業記憶・参照記憶における脳内ソマスタチンとノルアドレナリンの役割を、得意アセチルコリン(ACh)神経系との相互作用の観点から追求した。1.ソマトスタチン(SST):SST枯渇薬cysteamine(100mg/kg)は海馬や大脳皮質のSST様免疫反応活性を低下させた。しかし、systeamineは作業記憶・参照記憶いずれに対しても全く影響しなかった。抗コリン薬scopolamine(0.32mg/kg)は作業記憶を障害した。作業記憶に影響を及ぼさない用量のscopolamine(0.1mg/kg)をcysteamineと併用すると、著しい作業記憶障害が惹起された。一方、参照記憶に対しては両薬物の併用投与は何ら作用を示さなかった。以上、抗コリン薬による作業記憶障害は脳内SSTの枯渇によって増強されることが明らかとなった。2.ノルアドレナリン(NA):NA枯渇薬DSP-4(50mg/kg)の投与は海馬や皮質のドパミンあるいはセロトニン濃度には影響を与えず、NA含量を選択的に減少させた。DSP-4は作業記憶・参照記憶に全く影響を及ぼさなかった。scopolamineによる作業記憶障害はDSP-4を処置したラットでは著しく増強された。このような抗コリン薬による作業記憶障害の増強はbeta-受容体拮抗薬propranolol(10mg/kg)との併用によっても認められたが、alpha-受容体拮抗薬phentolamine(3.2-10mg/kg)との併用では認められなかった。一方、scopolamineとDSP-4、propranololあるいはphentolamineとの併用投与はいずれも参照記憶に対しては全く影響しなかった。 以上、本実験結果は作業記憶(ある施行内においてのみ有効な情報の獲得過程)における脳内ACh/SSTあるいはACh/NA神経系の相互作用の重要性を示唆するものであり、アルツハイマー病患者みられる重篤な記憶・認知障害は本疾患のmulti-neurotransmitter system disorderとしての性質(ACh神経のみならずモノアミンや神経ペプチドにまで障害が及んでいる)に基因していることを裏付ける一知見である。
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