研究概要 |
1.脳内での疼痛制御におけるL‐arginineの役割 一酸化窒素(NO)は,L‐arginine(L‐Arg)からNO合成酵素(NOS)により生成され,soluble guanylate cyclase (sGC)を活性化して細胞内cyclic GMP(cGMP)濃度を上昇させることによりその生理作用を発現する.一方,内因性鎮痛ペプチドkyotorphin(L‐tyrosyl‐L‐arginine,以下KTP)は,脳内でKTP合成酵素(KTP‐S)によってL‐ArgとL‐tyrosineから生合成され,Met‐enkephalin(Met‐Enk)の遊離を促進させることにより生理作用を発現する.著者らはL‐ArgがNOSおよびKTP‐Sの両酵素の基質である点に注目し,脳内での疼痛制御における役割を検討した.L‐Arg,NOS阻害薬およびsGC阻害薬はいずれも側脳室内投与により明らかな抗侵害作用を示した.L‐Argのこの効果はKTP‐Met‐Enk経路を促進することにより発現するのに対し,NOS阻害薬およびsGC阻害薬の効果はNO‐cGMP経路を抑制することにより発現することが明らかとなった.このことより,L‐Argは脳内で相反する2つの役割,すなわち,KTP系を介する抗侵害的な面とNO系を介する侵害的な面を有することが強く示唆された. 2.末梢での侵害受容におけるL‐arginineの役割 炎症時の侵害受容において,末梢組織中のNOが血管透過性を亢進させることにより侵害受容を促進させるとの見解と,nociceptorへの直接的な抑制作用により抗侵害的に作用するとの見解が対立した現状にある.著者らは,formalin誘発侵害反応モデルを用いてこの矛盾点の解明を試みた.その結果,末梢組織中でL‐Argより生成されるNOはその濃度に依存して侵害促進的な面と侵害抑制的な面を合わせ持つことが示唆された.
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