他の魚介類とは違って、イカ肉の食品としての価値は味よりも歯応え、すなわちその物性で評価されることが多い。したがって、イカを加工利用、とくにイカ肉の物性を顕著に変化させる加熱処理する場合にその処理がイカ肉の物性をどのように変化させるのかを把握することが重要である。しかし、加熱処理にともなうイカ肉の物性変化に関する実験的報告は少なく、いまだ不明な点が多い。そこで、本研究では、即殺直後の新鮮イカ肉の外套膜を試料として、加熱時におけるイカ肉の物性変化を経時的に詳しく調べることとした。また、魚肉やイカ肉の物性変化は構成蛋白質などの分子レベルの分解などに原因する部分は少なく、もっとマクロな組織構造の変化が原因であると考えられていることから、加熱したイカ外套膜組織の構造を組織学的に検索した。その結果、次のことが明らかになった。(1)生イカの定速圧縮破断試験では、輪走筋方向に破断した方が輪走筋を横断して破断するよりも破断エネルギーは大きく、イカ肉の物性には異方向性が認められた。(2)加熱により、外皮のコラーゲン線維は凝縮、ゼラチン化し、線維間に隙間を生じる一方、筋層では、筋原線維が著しく脱水、凝縮し、筋線維間には著しい乖離が生じていた。
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