まず、旧ソ連邦における鉄鋼技術の展開過程を、技術革新が著しく進んだ1950年代を中心に検討し、鉱石事前処理における自溶性焼結法、製銑工程における高炉の巨大化と炉頂高圧操業、製鋼工程における平炉の大型化と酸素富化送風、連続鋳造などの内実がいかなるものであったのかを明らかにした。これらは、いずれも1950年代における旧ソ連邦鉄鋼技術の大きな達成物であると同時に、諸設備の大型化による新規建設投資効率の低下、LD転炉への製鋼法の転換への機会喪失、それにともなう連続鋳造法普及の遅れといった負の側面を内包しているものであり、これらは1970年代後半からの旧ソ連邦鉄鋼業の顕著な停滞の技術的な要因へと転化していったことを指摘した(拙稿「旧ソ連邦における鉄鋼技術の展開過程とその特徴について」参照)。 また、化学技術については、旧ソ連邦の化学工業に世界第一級の生産高を誇る鉱物肥料、アンモニア、硫酸などの分野がある一方、化学繊維やプラスティック・合成樹脂の生産高が低位にとどまっていたことに着目し、世界史的に化学技術が原料とプロセスの両方において大きな転換点を迎えた1950年代を検討の中心におきつつ、旧ソ連邦がこの原料転換、プロセス転換に挫折した理由を明らかにしようとした。部門ごとの特殊性、その他のさまざまな経済的諸要因はあるが、最大の要因が化学プラント建設事業の構造的な問題にあったことを解明した(拙稿「旧ソ連邦における化学技術の展開過程について」参照)。 「研究の目的」としていた課題はコンビナ-ト形成の問題点の解明を除いて、ほぼ達成しえたと考えている。
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