本研究の目的は、運動間の干渉を指標として、上・下肢運動の自動化水準の差異について検討することである。被験者は、一般大学生男子22名と女子16名とした。被験者には、椅座位にて、左右交互の肩関節および手関節の屈伸によるタッピングの周期運動時に、両側の底屈運動を同時に1回挿入させる試行(実験I)と、左右交互の足踏みおよび足関節屈伸の周期運動時に、両側の掌屈運動を同時に1回挿入させる試行(実験II)を課した。周期運動の頻度は毎分150回とし、試行数は3回とした。上・下肢の接地タイミングを検出し、周期運動における左右交互の接地開始の時間間隔、挿入運動の実施時点、周期運動と挿入運動の履行状況を分析した。 実験Iでは、男女とも、肩関節運動時と手関節運動時に底屈運動を挿入した場合に、上・下肢運動の不履行がそれぞれ約半数の試行で認められた。また、上・下肢運動を履行できた試行では、上肢運動の周期が底屈運動の挿入される1つ前で短縮し、挿入時に延長した。この変化は、男女とも肩関節運動の方が大きかった。底屈運動の挿入時相は、運動が履行できた場合には左右の手の接地直前から直後の間に集中しており、運動が不履行であった場合にはその他の時相にも挿入された。実験IIでは、上・下肢運動の不履行は認められなかった。また上肢運動の挿入による下肢運動の周期の変化は、実験Iのものに比べて有意に小さく、中でも足踏み運動の周期の変化は極めて小さかった。掌屈運動の挿入時相は、左右の足の接地直前から直後の間に集中した。 以上の結果より、1)上肢運動の自動化水準が下肢運動に比べて低いこと、2)上・下肢の部位によって運動の自動化水準が異なること、3)自動化した運動では干渉の小さな時相で他肢の運動を組み合わせるという特性のあることが明らかとなった。
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