研究概要 |
我々は,1990年7月〜8月の約二ケ月間にわたる高地医学の研究のため,中国青蔵高原に,学術調査隊を派遣し,調査実験を行なってきた.その中で,呼吸パターンを変えることにより,SaO2が有意に改善されることがわかった.すなわち,この呼吸方法は,Voluntary Positive Pressure Breathing(VPPB)と,Pursed Lips Breathing(PLB)である(第68,69回日本生理学会発表).これらのことから,我々は,この呼吸方法を運動時のSaO2の改善に応用出来ないかと考え,VPPBやPLBの利点を伴った,呼出側に直径4mmの負荷装置を付けたマスクを開発し,実験した.その結果,マスクを装着した場合は,なにも付けない場合に比べ,換気量は少ないにもかかわらず,SaO2はほぼ同じ値を示していた(第39回日本生理学会中部談話会).従って,もし同じ換気量であった場合には,マスクを付けた方が,運動中においてもSaO2が改善されることが推測できた. そこで今回,マスクの開発を更に進め,患者の酸素吸入に使われる簡易マスクを改良し,45種類のマスクを考案し,実験を重ね,最も有効的なマスクを開発する事に成功した.このマスクを装着し,フィールドにて被験者に,2kmをできるだけ速く走ってもらうと,マスクを装着した場合は,なにも装着しない時に比べ,SaO2の値が良くなり,時間も短縮された.さらに,このことを確かめるため,トレッドミルにて,被験者に2kmを同じ負荷で走ってもらった.その結果,マスクを装着した場合の方が,なにも装着しない場合に比べ,SaO2の値が高かった(第71回日本生理学会発表予定).これらのことより,運動中のマスク装着の有効性が確認された.今後以上の結果を元に,業者と提携し,より確実なマスクを開発していき,長野オリンピックまでには,このマスクを実用化させていきたいと考えている.最後に,この実験の機会を与えて下さった関係者の方々に,感謝の意を表します.
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