研究概要 |
運動を遂行する際には,今までの運動経験の中で構築されてきた動きに対する表象を適切な表象に再統合することにより運動プログラムを作成し,実行している.また,動きに対する表象は,空間的,時間的,あるいは筋感覚的に形成されることが明らかにされている.そこで,本研究では,表象の形成における外的情報(アニメーション)の有効性を分析し,さらにアニメーションを用いて運動の空間的・時間的・筋感覚的要素に関わる表象の形成について検討した. 表象化の対象となる運動(器械運動の「後転倒立」に習熟したモデルのキネグラムをもとにアニメーションを作成し,それをもとに運動局面の構造を時間的・系列的な要因で変化させたアニメーションを外的情報として被験者である大学生に呈示した. アニメーションの速度を変化させた場合,空間的要素は速度が遅い方が表象化が容易であったが,時間的要素は速度が遅いと表象化が困難であった.筋感覚的要素においては,速度による違いは認められなかった.また,運動の各局面の速度を変化させた場合には,空間的要素では主要局面,時間的要素と筋感覚的要素は準備局面から主要局面前半の速度を遅くしたアニメーションが表象化において有効であった. 時間当たりのフレーム数を変化させると,速度が実際の運動と同じ場合には,フレーム数が多いほど時間的要素が表象化されやすいが,空間的要素や筋感覚的要素には差がなかった.一方,速度が実際よりも遅い場合には,すべての要素においてフレーム数が多いほど表象化されやすく,この傾向は空間的要素において顕著であった. なお,こうした情報の呈示は,技能の習熟段階によってその有効性が異なると考えられる.また,内省報告によると,アニメーションによる情報呈示はビデオテープなどと比較して運動の構造が理解しやすく,筋の緊張などの筋感覚的要素が得やすい.
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