ヒトにおいて覚醒状態で脊髄alpha運動細胞(MN)興奮性を探る方法としてH反射法がある。この単シナプス性反射の振幅の変化をてがかりとして、随意運動と脊髄レベルの反射機構のかかわりに関する研究が幅広く行われている。この種の実験では多くの場合、試験H反射に対してある種の脊髄反射回路を賦活させる条件刺激効果を見たうえで、上位脳からの修飾効果を探るという実験設定が用いられている。しかしながら、実験条件を一定にしても得られる結果には大きな個人差があり、通常は明確な結果のみが例示され、その他の結果は統計計算のデータとしてのみ取り扱われることが多い。したがって、この種の実験では明確な結果をもたらす被験者の選定がその成否に大きくかかわっている。このような個人差をもたらす要因1つとして安静時におけるMNプール興奮性の高低の関与が考えられる。その指標としては従来、「最大H反射/最大M波」、「H反射閾値/M波閾値」、「H反射回復曲線」などが用いられて来たが、それぞれ方法上あるいは解釈上の問題を含んでいることが指摘されている。本研究では、これらのMNプール興奮性の指標に変わりうる新たな指標について、(1)MNプールの出力特性(Mslp)と同名筋la入力増加に伴うMNプールの出力効率を示すと考えられるM波閾値以下での刺激強度におけるH反射の刺激発達曲線の変化率(Hslp)との比率(Hslp/Mslp)がMNプール興奮性評価の新たな指標となりうること[Electromyogr Clin Neurophysiol(印刷中)]。(2)従来、MNプール興奮性の指標とされてきた「最大H反射/最大M波」と「H反射閾値/M波閾値」の挙動は、同一条件下において必ずしも一致しないこと[Eur J Appl Physiol(投稿中)]、などについて明らかにした。これらの結果を受けて、平成5年度科研費申請書並びに新たに申請した平成6年度科研費申請書の実験計画に基づいて研究を続行している。
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