研究概要 |
1.1980年時点で東北地方の労働市場の類型化を,1980年のそれと比較対象させる意味で行った。その結果,80年にはA型(労働市場が良好な状態にある類型)に属した釜石が,90年にはB型(労働市場が良好な状態にない類型)に転じていることが明らかになった。これには,新日鉄の事業縮小が深くかかわっていると判断できる。それ以外の労働市場は両年を通じての差異は認められず,南東北がA型,北東北がB型に分類されるという格差構造が80年時点にも存在していたことが明らかとなった。なお,1970年時点の類型化も試みたが,資料がないための同様の尺度は行えず,別の指標を立てる必要があるといえ,これについては今後検討したい。 2.調査対象地区の岩手県北上地方(北上,水沢,一関)の労働市場は,東北の中では,有効求人倍率が高く域内の雇用機会に恵まれているが,新規学卒者の県外への就職移動が多いという雇用のミスマッチが顕著に生じている地域といえる。これは,1980年代後半にみられた新規工業の立地と既存工場の規模拡大によって労働市場に多量の求人がもたらされるが,域内の新規学卒者を主とした若年層の求職では補えなかったためである。求人の過半数が,製造工によって占められるという工業化が急速に進展した結果が,基本的に労働市場の性格を規定しているといえる。 3.また,工業化の進展による求人といっても,その半数以上が電気機器工業によるものである。そこで,域内のそれら事業所に対して調査を行い以下の結果を得た。従業員規模でみると,工場は,大規模,中規模,小規模,零細し4階層に分けられ,資本関係,経営形態,取引先という点でもこの階層間によって大きな差異が認められる。また,従業員規模だけでなく,年齢構成,男女比,賃金,通勤範囲という労働力構成の面での差異も大きいということが明らかとなった。工場の従業員規模によって生産体系上の位置づけが異なっており,それに応じて労働力の構成にも差異があるといえる。当地の労働市場は,内部的には電気機器工場により規定され,その生産体系に応じて階層化が進みつつある。
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