研究概要 |
ブラジル北東部の内陸部は、熱帯乾燥・半乾燥の干魃常習地域である。ブラジル政府は、ここに“干魃多角形地帯"を設定し重点的に干魃対策を実施している。本研究は、この“干魃多角形地帯"における住民の生業活動の特質をあきらかにし、それらが砂漠化する本地域の生態系にいかなる影響を及ぼしているのかを考察した。その結果、以下の諸点が明らかとなった。 1.ブラジル北東部では、史料的制約の多い16〜17世紀にも8年、18世紀には30年、19世紀には18年、20世紀(1983年まで)には18年の計74年に及ぶ干魃年が記録されており、このうち約20年は北東部全域を襲う大干魃であったことがブラジル内務省のデータより明らかとなった。また、1936年に画定された干魃多角形地帯は、1946年・1951年・1965年の法令とともに漸次その面積を拡大し、1983年現在その面積は936,993Km^2にも及んでいる。 2.本地域で多発する干魃の背後には、大土地所有制下での住民の粗放的かつ収奪的な経済活動や生活様式の変化に起因するカ-チンガ植生への人為的ストレスの増大とその多様化といった原因がある。現地住民の生業活動がカ-チンガ植生に及ぼす人為的インパクトは、カ-チンガ資源の利用と破壊(改良牧野の造成や鉱山開発による掘削)に大別される。カ-チンガ資源の利用は、さらに植物資源と動物資源の利用に細分できるが、とりわけ植物資源の過度な利用が砂漠化と密接な関わりをもっている。本地域では、家畜の飼料源・牧柵資材・燃料源・薬用樹木・建築材・植物繊維・食糧源などとしてカ-チンガ植生が日常的に利用されているが、特に牧柵や燃料源(レンガやパンを焼くための薪の採集や木炭生産)としての樹木伐採が植生に過度なストレスを与えており、干魃を誘発する重大な要因となっていることが解明された。
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