1992年2月に林野火災が発生した岡山県倉敷市と玉野市にまたがる瀬戸内海に面した王子が岳において、火災跡地での浅層部の土壌水分の観測、地表面温度やその他の微気象要素の観測を行った。その結果、同じ林野火災でもその燃焼の程度によって、後の微気象や植生回復に大きな違いが生じることが明らかになった。すなわち、木本まですべて燃焼した場所、木本は残存し林床植物のみが燃焼した場所、火災の影響を受けなかった場所で比較してみると、放射温度計(サーモトレーサ)による地表面温度の面的な観測値や、テンションメータによる土壌水分の観測値に違いがみられた。 まず、晴天日の日中、サーモトレーサによる地表面温度の観測では、木本まで全焼した場所が他の場所に比べてやや高温であることが確かめられた。逆に林床植物のみが燃焼した場所では、かえって何も影響を受けなかった場所よりも若干低温になる様子がみられた。また土壌水分の秋季から冬季にかけての連続測定の結果をみると、林床植物のみが焼失した場所で最もPF値が低い場合が多く、他の場所に比べて湿潤であった。 林床植物のみが焼失した場所では、火災時に地温がさほど上昇せず、再生のための種子や地下茎が生存していた。またコシダを中心とする林床植物の地上部が燃え、炭化した有機体となって植生回復のための肥料となった。それ故下草が再生し、以前よりも繁茂する様子が観察された。このことと共に火災時に木本が生き残ったため、この林が日射を遮断し、地表面温度の上昇を抑えたことが、蒸発散を抑制し、より湿潤な状態が保たれる結果となった。本研究では、これらについても定量的に裏付けることができた。今後も観測を継続し、より大きなスケールの気象現象との関わりについても考察したい。
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