本研究においては、先行研究の成果を踏まえて、地学的内容を事例として素朴概念を分析し解明しようと試みた。取り扱った内容は、地質領域として岩石とその構成物、気象領域として水の大循環、循環系の1プロセスである雨と雲、雨と雲の生成のメカニズムでもある水の相平衡(蒸発・結露)である。 結果は以下のとうりである。まず、岩石の事例では、特に意味ネットワーク的手法をもとにコンピュータを利用して明確化することができた。この事例では、主に素朴概念の表現方法の検討を意図して行われたものである。気象領域では、水の大循環等に関する素朴概念を、解法系的認識と閉鎖系的認識といった視点から7つの類型に分類できた。また、これらの概念を支える彼ら固有の根拠やイメージ、エピソードも明らかにすることができた。特に、循環系的認識が成立している子ども達の多くは、本で読んだ、先生に聞いた等の間接経験を根拠として思考し概念を構成しているという結果が得られた。このような結果は、「水の大循環」の実態が直接経験できないため当然のことと捉えがちだが、単に間接経験の結果を受け入れているのではなく、子ども達の内面において「雨は限りなく降る、川は限りなく流れる、海には限りなく川の水が流れ込む」といった直接経験をもとにした解釈に支えられた解法系的な認識との葛藤や並存があって、何らかの解釈や意味づけのもとに間接経験を受け入れていると推測される。このように、地学的事象については直接経験できないものが多いため、従来指摘されているような、日常生活による多様な経験をもとに素朴な概念を構成しているという一義的な解釈ではなく、新奇な課題との出会いの中で、その場で考えを構成するという場合が存在する可能性を示唆するものである。このような結果は、子ども達の認識を議論する上での領域固有という視点の重要性を明確にするものである。
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