研究概要 |
本年度においては大学レベルの数学を学習した経験のある大学院生をエキスパートの解決者と過程し、約50時間分の数学的問題解決のATRおよびVTRデータを採集した。そのデータをプロトコールに変換したうえで、他のデータも総合して分析を行った。その結果として、エキスパートの解決者においては、従来主として採用されてきたような理解から計画を経て実行へ向かうという直線的な解決過程ではなく、ある程度の理解の段階で問題場面についての理想化,単純化された表象(prospectivestructure)が構成され、それを精緻化する中で解決も進展していくことが見いだされた。(この結果は、17thInternationalConferenceofPsychologyofMathematicsEducationにおいて発表された。)また、問題場面の構造の精緻化にあっては、問題場面の一部デ成り立つことが見いだされた性質を逆に問題場面の構造の構成原理として利用していこうとする過程(大局的再構成)があること、さらに、その過程では新たな要素を導入するよりもむしろ既にある要素に新たな意味づけを与えていくことが見いだされた。(この結果は日本数学教育学会第26回論文発表会で発表された。) このデータから見いだされた過程をラカトシュ学派の科学哲学の視点から分析することにより、エキスパートの解決過程は、問題場面という対象について、解決者が自分の研究プログラムを持ちながら、場面についての大胆な理論を提唱したり、そこでの前進的問題移行を行ったりしながら、問題場面を理解していく過程として捉えることができることが見いだされた。つまり、(個人的な)研究プログラムの遂行としての数学的問題解決過程というモデルが構築された。(これは論文「ラカトシュ理論の数学的問題解決論への援用」としてまとめられた。)
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