本研究は、教師の授業情況判断を探るために、授業情況における教室情報の活用を中学校教師を対象に、明らかにした。対象授業は、数学「点の集合と図形」である。その結果、授業情況において教師が活用する教室情報は、授業展開決定情報、授業計画寄与情報、授業改善情報、の3種類であった。これらの情報の活用に教師の授業情況の判断および教師の信念・知識が反映していた。経験教師と若手教師との相違点は次のようなことであった。 1.経験教師、若手教師に比べて、授業展開決定情報を数多く活用している。この差異は、若手教師は設計段階での思考内容は多いが、授業計画が曖昧であり、経験教師は授業計画はポイント連結型という授業のポイントが明確であり、そのポイントを結ぶように授業計画は立てられているために、授業計画の形式は大雑把であるが、授業情況において自省する内容は、明確である。 2.経験教師は、授業情況、教授経験(該当クラスでの教授経験と教職経験)、教材構成、個人的な教授理論とを総合した判断・解釈に基づく情報の活用を行なう授業情況依存型と捉えることができる。一方、若手教師は、自らがもつ授業パターンの始まりの段階を、生徒の反応(到達度)に応じて決定している。すなわち、若手教師は、生徒の理解の程度、あるいは作図方法の習得レベルの累積的なモデル(教授過程)にしたがって、どのレベルから授業展開を始めるか、を決定するために、教室情報を活用している。したがって、若手教師は、教授理論依存型と捉えられる。 最後に、本研究では扱っていないが、教師による自己内省によって教室情報の活用というエピソードを知識として獲得し、それが組織化、構造化されることによって個人的な教授理論を形成していくという教師の成長系があると思われ、今後の課題である。
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