本研究の目的は、後置修飾、特に関係節文に焦点をあて、「戻り訳」の習慣が当該文の聴解過程を阻害するかどうかを検証することである。大学生101人を英語聴解力テストにより統制・実験群に分け、両群に関係節文の翻訳演習を行った。統制群には、関係節を文尾より前に戻りつつ訳す「戻り訳」の演習を課した。実験群には、戻り訳の習慣を矯正するため、文頭から文尾に向かって訳す「分割訳」演習を課した。分割訳は、関係節文の前半を訳し、その後後半を訳すという翻訳方法である。6週の演習後ポストテスト(関係節文の聴解テスト)を行い、両群の差を検定した。その結果、両群には統計的な有意差が見られなかった。この結果に対する解釈は、たとえ関係節文の「戻り訳」の習慣は、当該文の聴解には必ずしも阻害効果はないということである。しかし本研究で採った実験方法だけでは、この解釈の普遍性を断言することはできず、今後発展的研究を続ける必要がある。発展的研究の方向性としては、以下の点が考えられる。第1に、関係節文を学習したての時期の学習者に戻り訳と分割訳の習慣をそれぞれ教示し、聴解に影響が出ないかどうかを確かめることである。本研究の被験者(大学生)は、約6年間も「戻り訳」を中心に翻訳の習慣を続けてきたと考えられ、たとえ本研究の実験群の如く戻り訳習慣を払拭する演習をしても、その習慣を取り去れなかった可能性がある。第2に、関係節文の文頭から理解するための、翻訳以外の方法(例:TPR)で演習した被験者と、戻り訳の習慣のある被験者を比較することである。本研究の翻訳を用いた演習方法では、関係節文を後戻りせずに理解するストラテジーを習得させることが難しい可能性がある。第3に、実験群と統制群に対するポストテストに聴解テストではなく、読解テストを使うことである。つまり戻り訳の習慣が関係節文の聴解よりも読解(特に速読)に影響がある可能性がある。
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