研究概要 |
本研究では、大学生レベルの英語学習者を対象にし、リーディングにおける文・談話理解、特に代名詞理解に焦点をあて、そのプロセスを明らかにした。 まず、母語話者を対象とした代名詞理解の研究を概観し、その研究結果の整理を行った。これらの先行研究で問題となっているのは、母語話者の代名詞(he,she)の理解にどのような要因が利用されているかであった。様々な要因が確認されている中で、統語的手がかりである性(gender)と語用論的な情報である潜在的因果関係(implicit causality)については、どちらが優位な働きをしているのか議論が分かれている。最近の報告では、実験文の提示方法によって、結果が変化することが示され、表層的情報である性は被験者にまず利用される手がかりであるが、実験の負荷が減れば、動詞の意味に基づく情報である潜在的因果関係の利用が可能になることが明らかになった。 この実験結果を外国語として英語を学ぶ学習者に当てはめてみると、次のようなことが予測できる。(1)母語話者に比べ処理能力の劣る学習者は、まず、表層的情報である性を利用するため、全体的に、性の情報が可能であるかどうかによって反応の優劣が生じる。(2)学習を英語学力上位・下位群に分けた場合、上位群は処理能力に優れるため、潜在的因果関係の要因によって反応に差が生じるが、下位群はもっぱら性に依存した処理を行うため、上位群とは異なった反応となる。 予備テストの結果から、英語学力上位・下位群に分けた大学1年生を被験者としたオンライン実験では、上の予測が裏付けられ、学習者の英語学力による処理方略の違いが明らかになった。
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