適用を想定しているデータの時変周波数・振幅の特性を理想化したシュミレーションデータを作成し、このデータに対して、非線形・非ガウスモデルに従来使わされてきた拡張カルマンフィルターが実用可能かどうかを探った。多数の数値実験により、この方法による限界が明らかとなった。次に、非線形・非ガウス時系列ベイズモデルの表現方法のひとつである状態空間表現において、比較的高次元の状態ベクトルの推定方法の解法として最近提案されたモンテカルロフィルター(以後MCFと略す)法の適用可能性を探った。MCFは、確率変数の分布を解析関数で近似する従来の方法から、より複雑な対象に対してシンプルに記述をめざす、数値的に分布を記述する方向の近年の流れを受けたものである。従ってアルゴリズムはきわめて簡単であるが、計算機上の計算量はきわめて多い。また、萌芽的研究であるので、数値計算誤差をどの様に見積っていくかがまだ定まってはいない。よって、MCFにもとづいた解法を提案するために必要とされる基礎的な数値実験をかなり行った。例えば、モデルの同定に重要な働きをする尤度(あるいはAIC)の計算に伴う数値誤差の見積りを充分に行った。これらの基礎数値実験をへて、まずシミュレーションデータにたいしてMCFを適用し、観測ノイズが大きいために、時変ARモデルによるスペクトル推定が困難な場合にも、時変の周波数および振幅値をほぼ正しく推定できるという意味において満足のいく結果を得ている。さまざまな観測ノイズの状況において、どの程度推定が可能かのチェックを数値実験で行い、現在当初念頭にあった実際のデータボエジャーで得られた土星の輪による太陽光のoccultation-への応用を行っている。プログラム開発は、MCFの基礎数値実験に手間取り、計画調書に述べたほどは進まなかったが、基礎的な研究を通して、数値計算上でのノウハウが蓄積され、いくつかの新しい知見がえられた。
|