共有バス結合は、並列計算機のための最も実用的な結合方式のひとつである。従来共有バス結合は、安価であることの代償として、通信のバンド幅が非常に狭いという制約をもつものと認識されてきたが、近年のハードウェア技術の進歩は、共有バスの多重化・階層化という手法によってこの問題点を克服しつつある。今年度の研究では特に、二次元状に配置されたプロセッサを複数のバスで結合するモデルに着目し、そのような計算機上で効率的に情報交換をおこなうための新しい方式を提案した。この通信モデルに基づく並列プロセッサシステムはすでに多くの研究機関で稼働しており、それらのシステムをより効率的に運用する上でも、本研究の意義は大きいものと期待される。 主な結果は以下の通りである:1.プロセッサ間で情報交換をおこなう問題(この問題は一般に、ゴシップ問題と呼ばれている)を上記モデル上で考察し、その実行時間の厳密な解析を行った。この結果は同時に、このモデル上でのゴシップに関する非常に効率の良いアルゴリズムも与えている。2.1回の通信あたりの転送情報量をパラメータとして、上の結果をより現実的なモデル上で拡張した。通信1回あたりの転送情報量が大きくなるにしたがって、効率の良いアルゴリズムの性質が、集中的なものから分散的なものへと徐々に変化することが新たな知見として得られた。今後の課題として、この関係を系の持つエントロピーの増大などの観点からより詳しく評価することがあげられる。3.バスモデルのひとつの変形としてワ-ムホール転送モデルに着目し、同様の処理を対象として考察をおこなった。ワ-ムホール転送モデルは動的に経路の変化する一種のバスと見なすこともでき、この考察を通して、多重バスのひとつの発展の方向を示すことができるのではないかと期待している。
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