本研究の初期の目的は、事例ベース推論システムの構成にオブジェクト指向型の知識記述を加えた方式について考察を行うものであった。しかし、実際の研究においては、さらにその対象範囲を広げ、オブジェクトモデル上での推論の方式について考察を行い、その実用例について考察を行うものとした。 オブジェクトモデルに基づく事例ベース推論システムに関しては、次のように研究を行った。まず、推論対象のオブジェクトモデルの記述の言語の定義を行った。この言語では対象の物理的あるいは論理的な構造が表現され、システムにより改良Reteネットワーク構造に変換される。このようにしてえられたネットワークに事例を現すノードを追加していくことで事例の学習が行われる。また、類似事例の想起はネットワーク上に対象となる事例をト-クンとして送り出すことで行われる。特にオブジェクト指向システムにおけるクラス、インスタンス間の継承に関しては、改良Reteネットワーク上で行われるため、従来のオブジェクト指向システムで問題となるオブジェクト化に伴うオーバーヘッドは問題とならない。 また、実用例に関しては、仮想的なオブジェクトモデルを推論対象とし制御系を構成する方法について研究を行った。今回は、モデルに基づく制御方式が実用になるかを検討するために、オブジェクトモデルに対する推論方式として制御分野でよく用いられているファジィ制御を用いた。制御対象としては2自由度クレーンを用いて実験を行った。結果として、オブジェクトモデルを用いた制御方式は有用であることがわかり、今後、推論方式に事例ベース推論を用いた手法について検討を行っていく予定である。
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