研究概要 |
本研究では,危険資産価格の収益率が安定パレート分布に従う場合のポートフォリオ決定問題に対する近似解法を提案した.一般に,安定ポートフォリオ解析は複雑な確率非線形計画問題となり,直接的に解くことは非常に困難である.そこで通常は,危険資産だけから構成されるポートフォリオに対する子問題を平均-alpha偏差を用いて解き,有効フロンティアを求めた後,1つの危険資産と1つの安全資産から構成される2資産ポートフォリオ選択問題を解くことによってその近似解を得ることが可能である.しかしながらこの近似解法を用いると解の精度が非常に高い反面,計算時間が極めて膨大なものになることが問題とされてきた.つまり厳密に有効フロンティアを求めるためには,数多くの平均-alpha偏差問題を解かねばならない. そこで,目標関数であるところの効用関数が凹関数(つまり,投資家がArrow‐Prattの意味で危険回避的)であることに着目し,期待効用関数をその上限値で近似する方法について吟味した.具体的にはBen‐Tal and Hochmanの不等式を直接適用することによって近似期待効用の値を求めた.収益率が安定パレート分布に従う場合,富の分散がもはや有限値をとるとは限らないことから,Taylar展開などの級数展開を用いた近似法は有効性を失うこととなる.一方,本研究で用いた上限値基準は平均と絶対偏差の関数となっており,危険資産のalpha偏差が絶対偏差に正比例するという結果よりその経済学的意味づけも可能となる. 最終的に,数値例を用いて本研究で提案した近似手続きによる最適ポートフォリオと従来の方法によるものとを比較した.従来の2段階近似法による解の精度は有効フロンティアの精度に依存するが,本研究で提案した上限値基準による近似法は比較的短時間で解を求めることができることがわかった.さらに,危険資産の平均収益率の大きさの差が大きければ,上限値基準による近似解も非常に満足のいくものとなった.
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