赤外領域のパルスラジオリシス法により、凝縮相における電子の挙動を直接的に測定し、放射線化学初期過程の解明を行った。そのために、本研究では、東京大学工学部原子力工学研究施設28MeV電子線ライナック及び大阪大学産業科学研究所の38MeV電子線ライナックを使用し、ピコ秒及びサブナノ秒のパルスラジオリシスシステムの開発及びデータ処理系の改善を実施した。 主に液体アルカン(飽和炭化水素)対象に、赤外領域(800〜1500nm)で、電子線によって生成するカチオンラジカルや電子の時間的挙動を調べた。ピコ秒領域では、カチオンラジカルと電子の減衰は一致し、両者は、ジェミネートイオン最結合と呼ばれる不均一反応で、消えていくことが確認された。その挙動は、理論的には、スモルコフスキー方程式と呼ばれるクーロン場を含む拡散方程式に従うことが判った。理論的な解析から、ジェミネート対の初期の空間分布や寿命等を決定した。また、ポリオレフィン等の固体有機物でも同様の結果を得ることが出来た。 一方、ナノ秒領域では、カチオンラジカルの減衰が、電子の減衰より速くなっていることが見い出された。この時間領域では、カチオンラジカルはジェミネートイオン再結合ではなく、周囲のアルカン分子とイオン-分子反応を起こしていると結論された。
|