発現ベクターに紫外線を照射して培養細胞に導入すると、遺伝子の発現が抑えられることが知られている。これは、遺伝子の転写ユニットに存在する損傷が、RNAの合成を途中で停止させるためと考えられている。この点をより詳細に明らかにするため、プラスミドの一部分にのみ紫外線で損傷を与え、これを培養細胞に導入する実験を行った。 プラスミドとしては、pSV2catのCAT転写ユニット(SV40初期プロモーター+CAT遺伝子+SV40polyA)をpBluescript KS+に移したものを用いた。このプラスミドを制限酵素処理し、[ベクター+プロモーター](3.0+0.3kb)と[CAT遺伝子+polyA](1.6kb)のふたつの断片に分けた。各々の断片を254nmの紫外線で照射したのちライゲーションを行った。このDNAをリポフェクションでHeLa S3細胞に導入し、40時間後のCAT活性を測定した。 500J/m^2の紫外線を[CAT+polyA]のみに照射した時には、CAT活性は約20%に低下し、[ベクター+プロモーター]のみに照射した時には約60%であった。なお、この線量をもとのプラスミド全体に照射した場合のCAT活性は、約10%であった。また、この線量でのピリミジン二重量の生成数は、3.4ESS/kbと見積っている。 以上より、このプラスミドの転写の抑制の大部分は[CAT+polyA]上の損傷によるものであろうが、プロモーターやベクター部分の損傷も関与していると思われる。
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