研究概要 |
アキシタ・テランジェクタシア(AT)患者由来リンパ芽球様細胞株GM2783より得られたgamma線誘発6チオグアニン耐性突然変異体のヒポキサンチンフォスフォリボシルトランスフェレース(HPRT)遺伝子の9個のエクソンを多重PCR法を用いて増幅し、エクソン部分の有無を検討した。調べた15個の変異体のうち12個(80%)に欠失があり、正常対照であるTK6細胞のgamma線誘発突然変異における欠失突然変異の割合(33%)に比べて非常に高かった。特にAT変異体のうちの53%(8/15)がHPRT遺伝子の全欠失によるものであり、AT細胞では欠失領域が大きいことが示唆された。この点を更に詳細に解析するためにHPRTのセントロメア側マーカーDXS79、及びテロメア側マーカーDXS86について検討したところ、TK6由来突然変異体ではこれらのマーカー部位にまで欠失が及んでいるものはなかったが,AT由来変異体にはこれらのマーカーを欠失しているものが見られ、殊に両マーカー共欠失している変異体が5クローン(33%)あった。両マーカー間の距離は約1.2Mbと推定されており、AT細胞では正常細胞に比べて非常に大きな欠失が高頻度に生じていることが明らかになった。HPRT遺伝子内に欠失の両端を持つAT変異体が4クローンあり、そのうち3クローンについて切断点の塩基配列を解析した。2クローンにおいては欠失端にそれぞれ2塩基及び3塩基の短い反復配列が見られ、これまでに明らかにされてきた切断点の多くと共通の特徴を示した。第3のクローンでは上記のような反復配列は一見したところ存在しなかったが、1塩基の欠失を想定すると、3塩基の反復配列を共有する欠失という説明が可能であった。従って、この場合は2つの突然変異事象が起こったことを示すものと考えられる。以上の結果はgamma線によってAT細胞のゲノム不安定性が大きく上昇したことを示唆するものである。
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