エネルギーが1Mev程度の核分裂中性子では、線量率をある値以下に下げると逆に生物影響が大きくなるという「逆線量率効果」が知られている。この現象はマウス白血病細胞であるL5178Y細胞の6-チオグアニン耐性(HPRT欠失)突然変異でも報告されており、その作用機序が世界的に議論されてきた。最近、L5178Y細胞の^<252>Cf核分裂中性子によるHPRT欠失突然変異の細胞周期依存性を調べた結果、G_2/M期がそのほかの時期と比較して異常に突然変異誘発効果が高く、gamma線ではこのような現象はみられないことがわかった。通常、放射線照射によって細胞周期はG_2期でブロックされることが知られているので、G_2/M期の異常な突然変異感受性の高さが核分裂中性子による逆線量率効果の原因である可能性が示唆された。そこで、対数増殖期の細胞に高線量率(1.60cGy/min)および逆線量率効果が観察される低線量率(0.15cGy/min)で^<252>Cf核分裂中性子を照射し、細胞周期の構成の変化(フローサイトメトリーによる解析)とその集団の6-チオグアニン耐性突然変異感受性を調べた。その結果、高線量率照射群では細胞周期の構成は余り大きく変化しなかったのに対し、低線量率照射群では細胞周期の構成が大きく変化し、G_2/M期の割合が2倍以上に増加した。中性子照射群ではその集団の突然変異感受性を調べることが難しい(すでに細胞が中性子を浴びているため)ので、同様の細胞周期構成の集団をgamma線照射によって作成し、^<252>Cf核分裂中性子誘発突然変異感受性を調べた結果、低線量率照射群の感受性は高線量率照射群よりも明らかに高かった。このことから核分裂中性子によるHPRT欠失突然変異における逆線量率効果は低線量率照射による細胞集団内のG_2/M期の蓄積とG_2/M期の細胞の突然変異感受性の高さが原因となっていることが明かとなった。なお、本成果は現在国際誌への投稿を準備中である。
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