重金属による呼吸器障害の発症メカニズムを明らかにすることを目的として、肺胞中の細胞の機能に対する重金属の影響をin vitroで検討した。まず、肺胞に常在し、異物除去に中心的役割を果たしていると考えられる肺胞マクロファージの機能について調べた。殺菌作用を持つ活性酸素の放出について調べたところ、1x10^<-4>MのCdCl_2を添加することによって産生量が約2倍に増加した。亜鉛や水銀ではこのような現象は観察されなかった。カドミウムは単独で肺胞マクロファージの活性酸素産生を増加させる作用を示すことが明かとなった。 つぎに肺胞マクロファージのアラキドン酸代謝について検討した。肺の炎症過程においては肺胞マクロファージの産生するLTB_4が炎症部位への好中球の浸潤に重要であると考えられる。カドミウムを添加して培養した肺胞マクロファージではA23187刺激時のLTB_4産生が約2倍に上昇した。これはカドミウムのlipoxygenaseへの直接作用ではないかと考えられた。一方、無機水銀を培地中に添加するとそれだけで肺胞マクロファージのLTB_4産生が数十倍に増加した。これはマクロファージに多量に含まれる特殊なリン脂質、アルケニル型エタノールアミンリン脂質が水銀の触媒によって分解され、さらにマクロファージのリゾホスホリパーゼ作用によってアラキドン酸が遊離してくるためであることを突き止めた。亜鉛やニッケルなど他の重金属は高濃度を添加することによって阻害作用を示した。 これらの重金属は肺実質細胞に対しても細胞障害を起こすことが知られている。これらの作用が複雑に組合わさって炎症が進行して行くものと考えられるが、今回の結果から一部の重金属ではマクロファージの生理活性物質の産生を増加させることによって炎症の進行と深く関わっていることが明かとなった。
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