先ず、高級脂肪酸の分解に及ぼす硫酸塩還元菌の存在の影響を検討するため、次に示す2条件の嫌気性細菌群の半連続培養を行った。高級脂肪酸としてパルミチン酸(1000mgCOD/1)を投与し、硫酸塩無添加系、硫酸塩添加系(600mgSO_4/1)の各完全混合型反応槽を水理学的滞留時間20日で培養した。通常、高級脂肪酸の嫌気的分解は高級脂肪酸を利用する水素生産性酢酸生成菌(acetogenic菌)、水素利用メタン生成菌、酢酸利用メタン生成菌の3種の細菌群の共生的作用により遂行される。一方、硫酸塩添加系の場合は硫酸塩還元菌が関与する生態系になるが、その定常状態でのパルミチン酸の分解に関して以下のことが明らかになった。 1.水素を利用する菌がメタン生成菌ではなくSRBになる。一方、酢酸はSRBによって殆ど利用されない。 2.パルミチン酸自身の分解速度は硫酸塩無添加系でのそれと同程度であり、また同機構で分解される。 3.SRBの代謝によって生成した硫化物が酢酸からのメタン生成に対して阻害効果を持つので、処理効率を上昇させるためには阻害対策が必要である。 以上の半連続培養で得られた知見をもとに、UASB装置の運転を開始する。基質は全COD3000mg/1(うち脂質50%)、硫酸塩濃度1500mgSO_4/1の合成廃水を用い、また硫化物による阻害を防止するため脱流装置(ストリッピングした硫化水素を酸化鉄に吸着除去)を設ける。予備実験によって脱流装置の適切な操作条件(パ-ジ時間、循環水量など)が明らかになった。
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