アンチトロンビンIII(ATIII)はトロンビンと1:1の複合体を形成して活性を阻害する血液凝固系の制御調節因子であり、トロンビン・ATIII複合体(TAT)は炎症や血管内皮細胞障害に伴う凝固亢進状態で著明に増加する。我々は血管内皮細胞障害部位で多量のTATと単球が近接して存在すると示唆されることから、TATと単球との相互作用について研究してきた。その結果、TATは単球系樹立細胞U937に特異的かつ飽和的に結合することを明らかにした。この結合は非常に速い反応であり、5分後には最大結合量の80%が結合しており、30分後には最大結合量に達した。この結合は非標識TATで強く阻害されたが、ATIIIおよびトロンビンでは阻害されなかった。ATIIIはU937細胞に結合しなかった。また、Perlmutterらが肝癌細胞HepG2上に同定したSEC(Serpin-Enzyme Complex)レセプターの認識アミノ酸配列に基づく合成ペプチド(alpha1アンチトリプシン・359-374)はU937細胞にも特異的かつ飽和的に結合し、同レセプターの存在が示唆された。一方、このペプチドはTATのU937細胞への結合を阻害せず、TATレセプターとPerlmutterらの同定したSECレセプターとは異なる物質であることが判明した。レセプターに結合したTATは細胞内に取り込まれ、リソゾームで分解された。現在TATレセプターおよびSECレセプターの精製が進行中であり、また、TATのU937細胞の機能への影響について検討中である。
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