アドレノドキシン(以後AdXと称する)は、副腎皮質のミトコンドリア中に存在し、ステロイドホルモン生合成に関与している。2Fe-2Sクラスターを活性中心に持つ非ヘム鉄タンパク質で、分子量は約40K、アミノ酸残基128個、等電点は4.0±0.1である。十数年前からいくつかのグループにより結晶化が試みられてきたが、X線解析に適した高分解能を与える結晶は、いまだ得られていない。その原因としては、(1)分子がもともと、揺らいだ構造の部分を持っている。(2)結晶中で同一部位が複数個の分子間相互作用様式を取ることなどが考えられる。いずれもアミノ酸配列を変え、低温で回折強度を測定することにより克服できる。そこで、本研究では、分子生物学的手法(部位特異的突然変異)を取り入れ、電子伝達媒体として高活性を保持した、立体障害のない構造を持つ変異体(まず手始めにY82F、Y82W ミュータント)を設計し、大量発現系の構築、精製系の確立を行ない、結晶の質的改善を、そして測定温度を下げてX線回折像を得ることにより結晶の損傷の防止を目指した。精製には陰イオン交換体(DEAE)、硫安分画、ゲルろ過(セファクリルS-200HR)、強陰イオン交換体(TMAE)等を組合わせた。高純度のAdX(A_<414nm>/A_<276nm>>0.9)を単離することができた。この標品を結晶化標品とし、2M リン酸カリウムを沈殿剤としたハンギングドロップ蒸気拡散法(277K)にて、最大で約1mm長の六角柱状結晶を得ることができた。現在は、X線回折像の撮影を277Kにて行い、高分解能の反射が得られるか、またX線により受ける損傷の程度が低いかどうか検討を行っているところである。今年度はDNA組換え変異体を精製・結晶化する系が確立した。今後さらに種々の変異体を結晶化し、ルーチン解析を進め、AdX機能を明らかにする予定である。
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