研究概要 |
ピリドキサール酵素の反応機構の一般化をめざし、大腸菌体内で大量に発現したラット肝芳香族アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)の構造と機能を、研究の進んだアミノトランスフェラーゼと対比しつつ解析を行っている.本年度に得た知見は以下の通りである. 1.AADCにおける補酵素の存在様式 AADCにおけるピリドキサルリン酸(PLP)の存在様式を分光学的に解析したところPLPはLys303とシッフ塩基を形成しエノールイミン型と呼ばれる非解離型の互変異構造をとっていることが判明した.同じ芳香族アミノ酸を基質とする大腸菌芳香族アミノ酸アミノトランスフェラーゼ(AAAT)においてもシッフ塩基の構造はエノールイミン型が有意に増加しており,ピリドキサール酵素においては基質特異性と補酵素の存在様式が密接に関連していることが示された 2.AADCの反応機構 ピリドキサール酵素においてPLPが基質と速やかに結合するためにはPLP-Lysシッフ塩基はプロトン化されたケトエナミン型であるのが好都合である.AADCと基質ドーパや基質アナログとの反応の分光学的解析から,AADCに基質が結合するとPLP-Lysシッフ塩基はエノールイミン型からプロトン化ケトエナミン型へ変化することが示された.一方AAATではエノールイミン型と脱プロトン化ケトエナミン型の混在した状態であるが,基質結合に伴ってやはりプロトン化ケトエナミン型へと変化することが示された.このようにピリドキサール酵素では基質特異性や反応特異性によって補酵素の存在様式に差があるが,基質結合後はすべてプロトン化ケトエナミン型となり,反応機構を統一的に理解することが可能であることが判った. 3.AADCの活性に関与する残基 基質や基質アナログのpH依存性ならびに化学修飾の結果より,基質のアミノ基からプロトンを奪う残基としてヒスチジンが考えられた.このヒスチジンとしてデカルボキシラーゼに共通して保存されているHis192とHis269が候補と考えられる.これらのヒスチジン残基をアラニンに置換したものは活性を完全に消失しており、更にHis192はAADCの吸収スペクトルを大きく変化させていた.このことから,His192が補酵素PLPの近傍にあって基質の結合と活性化,さらに補酵素の機能発現にかかわる重要な残基であることが示された.その他,Asp252,Asp271もAADCの活性発現に重要な残基として同定されており,今後その役割の解析を進める予定である.
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