ミトコンドリアプロセシングプロテアーゼによる認識機構を明らかにするために、以下の研究をおこなった。(1)プロテアーゼ反応をリアルタイムで測定できる基質の開発。(2)基質と同様に酵素に結合するが、切断を受けず酵素と安定な複合体を形成する基質類似体の開発 (1)リンゴ酸脱水素酵素の延長ペプチドをモデルとした合成ペプチドが、ミトコンドリアプロセシングプロテアーゼの基質となり正しい位置で切断を受けることを明らかにした。この合成ペプチドを修飾し、アミノ末端に蛍光基を、切断部位をはさんでカルボキシル末端側に消光基を導入した。その結果、蛍光基は延長ペプチド中の遠位のアルギニンよりもアミノ末端側に存在し、消光基はカルボキシル末端側の切断部位、すたわち、P1'から少なくとも3残基は離れていれば切断に伴い蛍光を発することが判明した。この基質は酵素反応をリアルタイムでしかも高感度に測定することを可能にした。この蛍光基質をさまざまに改変することで、基質認識における遠位および近位のアルギニン、P1'位のアミノ酸の重要性が判明した。 (2)リンゴ酸脱水素酵素の延長ペプチド中のP1'位のアミノ酸をL-フェニルアラニンからD-フェニルアラニンへと置換させた。この基質類似体はプロテアーゼにより切断を受けなくなるばかりか、もとのペプチドやin vitroで合成した前駆体タンパク質の切断をも強く阻害した。この基質類似体を用いて酵素の部位特異的標識化などへの応用を現在準備している。
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