ミトコンドリアのF_1Fo-ATPaseはATPaseインヒビター蛋白とその安定化因子(15K蛋白、9K蛋白)によって活性調節がなされている。ATPaseインヒビターは従来、酵母や牛心筋で研究されてきたが、本研究では最近Gene Targettingなどの遺伝子操作法が確立されつつあるマウスのATPaseインヒビターと安定化因子の精製および構造決定を目的とした。実験に先立ち、まず同じげっ歯類に属するラットの肝からのATPaseインヒビターの精製を試みたが100頭余りのラットからわずかのATPaseインヒビターしか単離されなかった。時を同じくしてアメリカのRouslinら(1993)はラット、マウスを含むげっ歯類にはATPaseインヒビターは非常にわずかしか存在しないとの報告を行った。しかし、Higuchiら(1992)、Pedersenら(1993)は牛のインヒビターのcDNAをプローブとして、ラット肝のインヒビターのcDNAをクローン化した。げっ歯類におけるATPaseインヒビターの作用についてはまだ問題があると思われたので、ラットのATPaseインヒビターのcDNAの微生物での発現およびそのCharactrizationを試みることにした。cDNAはHiguchiらが決定した塩基配列に基づき、ラット肝cDNAライブラリーからPCRによって単離した。pUC119にサブクローニングしたcDNAの塩基配列はHiguchiらのものと完全に一致した。このcDNAを酵母の発現ベクターであるYEp51のGAL10プロモーターの下流にクローニングした後、酵母のATPaseインヒビター欠損株であるD100株へ導入した。しかしこの菌体から熱抽出した蛋白質画分からATPaseインヒビターの活性を検出する事はできなかった。今後酵母の発現系での発現条件の再検討、また大腸菌での発現系の検討を行いたい。
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