ATPのアナログであるFDNP-ATPを合成し、これを用いて筋小胞体Ca^<2+>-ATPaseを親和修飾する事により、以下の結果を得た。 1.家兎骨格筋より調製した筋小胞体をMg^<2+>存在下、pH7.0、25℃で40muM FDNP-ATPとインキュベートすると、Ca^<2+>-ATPase活性は時間とともに低下し、4時間で20%以下になった。この活性阻害は20mM MgATPにより完全に保護された。 2.FDNP-ATPの筋小胞体膜への取り込みも時間と共に増加し、20mM MgATPはその一部を抑えた。FDNP-ATP取り込み量のうち、MgATPで抑制される部分とCa^<2+>-ATPase活性の間には直線関係が認められた。この直線の外挿値から3.6nmol/mgのMgATP感受性FDNP-ATP結合によりCa^<2+>-ATPase活性が完全に抑えられることが示唆された。 3.FDNP-ATP処理によりCa^<2+>-ATPase活性と同様に、ATPからのEP形成及びアセチルリン酸分解活性は阻害されたが、リン酸からのEP形成は全く阻害されなかった。またアセチルリン酸はMgATPと同様、FDNP-ATPによる酵素の阻害に対して保護効果を示したが、リン酸は全く保護効果を示さなかった。 4.FDNP-ATP処理した筋小胞体よりCa^<2+>-ATPaseを精製し、トリプシン消化を行ったところ、FDNP-ATPの結合したペプチドが4本得られた。これらのペプチドのアミノ酸配列を決定したところ、いずれもCa^<2+>-ATPaseの492番目のリジン残基にのみFDNP-ATPが結合していた。 これらの結果より、FDNP-ATPはCa^<2+>-ATPaseのATP結合部位に結合して酵素の阻害を引き起こすことが示され、Ca^<2+>-ATPaseの492番目のリジン残基はATP結合部位のalpha-リン酸基近傍で、3′-OH基側に位置することが示唆された。
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